一般財団法人「女性科学者に明るい未来をの会」

本年の受賞者  第38回(2018年)猿橋賞 

第38回 猿橋賞受賞者 寺川寿子 氏の研究業績要旨
「地震活動を支配する地殻応力と間隙流体圧に関する研究」
Study on crustal stress and pore fluid pressure governing seismicity

 地殻の地震活動は、そこに働く応力だけでなく、断層強度を支配する間隙流体圧にも依存する。寺川寿子氏の特筆すべき業績は、地震の震源メカニズム解から地殻の応力パターンと地震発生時の間隙流体圧分布を推定する独創的な逆解析手法を開発し、地震の発生に至る地殻の物理過程を観測データに基づいて実証的に明らかにしたことである。  

 地震は震源域に蓄積された応力が強度に達したときに発生する。地震の発生を理解するためには,地殻の応力状態と断層強度の両方を知ることが本質的に重要であるが,震源域の応力や断層強度を直接測ることは極めて困難である。寺川氏は、これまで広く用いられていた地震断層のすべりデータから応力場を推定する方法の問題点を解決し、地震を起こす応力場のパターンを合理的に推定する新しい手法を開発した。その手法を約12500個の地震データに適用し、日本列島の大地震の発生や長期的な地殻変動を引き起こす3次元広域応力場の推定に初めて成功した。

 この研究を出発点として、広域応力場から期待される断層すべりとは異なる向きの地震が発生することに注目し、これは間隙流体圧の上昇によって断層の強度が低下した現象によるものであると考えた。この考えと土壌や岩石の破壊条件として良く知られているクーロンの破壊規準に基づいて、観測された断層すべりのタイプと応力場から期待される断層すべりのタイプとのずれを測ることにより,地震の震源メカニズム解から間隙流体圧を推定する独自の手法を開発した。その手法を用いて、2009年のラクイラ地震の前震-本震-余震活動や2011年東北沖地震後の誘発地震活動が間隙流体圧の時空間変化に伴う断層強度の変化で合理的に説明できることを示した。さらに、スイス・バーゼルの地熱貯留層での高圧注水に伴う誘発地震にこの手法を適用し、間隙流体圧の上昇に伴って誘発地震が発生する過程を忠実に再現することに成功した。

 寺川寿子氏は地震学の研究を始めるまでに10年近くのブランクがあったため、さまざまの困難に直面しながらも、学界常識にとらわれない独創性豊かな一連の研究により、地殻の応力と間隙流体圧に支配される地震発生に至る物理過程を地震の観測データの解析から実証的に明らかにした。これらは、地震発生物理の解明と地震発生予測に向けた研究に質的な発展をもたらすものであり、今後地震災害の軽減に貢献することが期待され、猿橋賞にふさわしい研究業績として高く評価できる。


東京都出身

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